人身取引とは? 罪の内容や逮捕後の流れ、罪を軽くする方法を解説
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女性を風俗店に送り込み、その対価として報酬をもらうような行為をすると、人身取引に該当し、人身売買の罪により処罰される可能性があります。
近年、ホストクラブの売掛金の支払いのために風俗店で働かせるなどの事案が問題になっており、人身取引であることを知らずに違法行為に手を染めてしまう方も増えてきています。
このような人身取引をしてしまったときはどのように対処すればよいのでしょうか。本記事では、人身取引の罪や逮捕後の流れ、逮捕回避や早期釈放に向けてできることなどを、ベリーベスト法律事務所 長野オフィスの弁護士が解説します。


1、人身取引とは?
人身取引とはどのような行為なのでしょうか。以下では、人身取引の概要と人身取引により問われ得る罪について説明します。
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(1)人身取引とはどのような行為?
「トラフィッキング」(人身取引)と呼ばれるものとして、女性や子どもを含む、社会的に弱い立場にある人を、暴行・脅迫・誘拐・詐欺などの手段で支配・移送し、性的サービス労働・強制労働などを目的として搾取する犯罪があります。
人身取引にあたる具体例としては、以下のようなものがあげられます。- 売掛金や借金返済のために女性に売春を強要する
- 技能実習生の外国人からパスポートを取りあげて、低賃金で長時間強制労働させる
- 子どもを養子縁組や労働のために売買する
刑法226条の2で処罰の対象になる人身売買とは、そのようなトラフィッキングと完全に一致するわけではありませんが、人身の買受行為と売渡行為を指します。
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(2)人身取引をしたときに成立する犯罪
人を物のように売買したり、搾取目的で移送・引き渡す行為があったりした場合、刑法226条の2の人身売買罪が適用されます。
具体的には、以下のような刑罰が科されます。- 人を買い受けた場合:3月以上5年以下の拘禁刑
- 未成年者を買い受けた場合:3月以上7年以下の拘禁刑
- 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で人を買い受けた場合:1年以上10年以下の拘禁刑
- 人を売り渡した場合:1年以上10年以下の拘禁刑
- 所在国外に移送する目的で人を売買した場合:2年以上の拘禁刑
このような人身取引が発覚すると、警察により逮捕される可能性があります。
2、人身取引で逮捕された後の流れ
人身取引で逮捕されると、以下のような流れで刑事手続きが進んでいきます。
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(1)逮捕・検察へ送致:逮捕後48時間以内
人身取引で逮捕されると、そのまま警察署まで連行され、警察による取り調べを受けることになります。
軽微な犯罪であれば微罪処分により検察に送致されることなく警察だけで事件が終了することもありますが、人身取引は重大な犯罪行為になりますので、微罪処分の対象にはならないでしょう。
そのため、警察は、逮捕から48時間以内に被疑者の身柄を検察に送致しなければなりません。 -
(2)勾留請求:送致後24時間以内
検察官は、被疑者の身柄の送致を受けたら被疑者に対する取り調べを実施し、さらに勾留して身柄を拘束する必要があるかどうかを検討します。
検察官は、勾留が必要であると判断すると、被疑者を受け取った時から24時間以内かつ逮捕から72時間以内に裁判官に勾留請求を行います。 -
(3)勾留・起訴の決定:最大20日間
検察官からの勾留請求を受けた裁判官は、被疑者に対する勾留質問を実施し、被疑者の言い分などを確認した上で勾留を許可するかどうかの判断を行います。
2023年(令和5年)検察統計によると略取・誘拐・人身売買の罪で勾留請求された事件は314件ありましたが、そのうち勾留が許可されたのは303件ですので、勾留率は約96%とほとんどの事件で勾留が許可されています。
勾留が許可されると原則として10日間の身柄拘束となり、勾留延長も許可されるとさらに最長10日の身柄拘束が行われます。すなわち、最長で20日間にも及ぶ身柄拘束期間になりますので、被疑者の心身には大きな負担が生じることになります。 -
(4)刑事裁判
検察官は、勾留満期までに事件を起訴するか不起訴にするかの決定をします。
人身売買罪は、法定刑に罰金刑の定めがありませんので、起訴されれば略式請求ではなく公判請求となり、ほとんどの事件が有罪になります。
他方、不起訴処分になればその時点で身柄は解放され前科が付くこともありません。
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3、人身取引の罪│逮捕回避や不起訴を目指すには
人身取引の罪は軽くはありません。しかし罪を悔い改めるためには早期の行動が重要です。逮捕回避や不起訴に向けて何ができるか、対処法を説明します。
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(1)自首する
捜査機関に犯罪事実および犯人が発覚していない段階であれば、自首をすることで罪を軽くできる可能性があります。
自首とは、捜査機関に発覚する前に自ら犯罪事実を申告することをいいます。裁判官の裁量によりますが、起訴されて有罪になったとしても刑の減軽を受けられる可能性があります(刑法42条1項)。
また、自首をすることで逃亡や証拠隠滅をする意思がないことを示せるため、逮捕を回避できる可能性も高くなります。 -
(2)示談を成立させる
人身取引による被害者との間で示談を成立させることができれば、処罰の必要性の低下や被害回復が図られたとみなされ、不起訴処分となる可能性が高まります。また、起訴されても執行猶予がつく可能性もあるでしょう。
不起訴処分を目指すのであれば、迅速に被害者との示談交渉を進めることが重要です。
起訴決定までの時間は、逮捕されたのであれば23日以内、身柄を拘束されない在宅事件の場合は数か月かかることもあります。 -
(3)主犯格ではない証拠を集める
人身取引に関する犯罪で共犯者がいる場合、量刑を判断するにあたっては、主従関係や役割分担が重要な考慮要素のひとつになります。
人身取引に関する犯罪に関与したとしても、主犯者から脅されてやむを得ずに手を貸した、道具を用意しただけで直接人身取引に関与していないなど従たる役割であったという事情は、量刑判断において有利な事情となります。
共犯者とのメールやLINEなどのやり取りから主従関係や役割分担を立証できれば、罪を軽くできる可能性がありますので、主犯格ではない証拠を集めるようにしましょう。 -
(4)弁護士に相談する
人身取引の罪を軽くするには刑事事件の実績がある弁護士のサポートが不可欠となります。
弁護士に相談をすれば以下のようなサポートを受けることができます。- 警察署への自首同行
- 被害者との示談交渉
- 不起訴処分獲得に向けた捜査機関への働きかけ
- 有利な証拠の収集
特に、被害者との示談交渉は、加害者本人だけでは被害者から拒否されてしまう可能性が高いため、弁護士がいなければ対応は困難です。また、逮捕・勾留されている状態では身動きがとれませんので、弁護士に依頼して示談交渉を進める必要があります。
4、人身取引で逮捕されそうな場合は弁護士に相談を
人身取引で逮捕されそうなときは、すぐに弁護士に相談するようにしましょう。
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(1)逮捕される前に適切な対応や行動についてアドバイスを受けられる
人身取引で逮捕されてしまうと、最長23日間にも及ぶ身柄拘束を受ける可能性があります。
身柄拘束中は、仕事や学校には行けず外部と自由に連絡をとることができないなど非常に不自由な環境での生活を強いられます。長期間の身柄拘束になれば解雇や退学などのリスクも高くなるため、可能であれば逮捕を回避したいところです。
早めに弁護士に相談することで、逮捕回避のための具体的なアドバイスが受けられます。また、被害者との示談交渉や自首の付き添いなども可能なため、まずは早めに相談することをおすすめします。 -
(2)罪を軽くできるように働きかけてくれる
人身売買の罪は、法定刑に罰金刑がなく、起訴されて有罪になれば拘禁刑が科されます。
実刑判決になれば刑務所に収監されてしまいますので、起訴されたときは執行猶予付き判決を獲得することが重要になります。
早い段階から弁護士に相談をしていれば、早期に被害者との示談を成立させるなどして罪を軽くできるよう働きかけることも可能です。
刑事事件はスピード勝負といわれるように迅速な対応が肝となりますので、人身取引で逮捕されそうなときはすぐに弁護士に相談することをおすすめします。 -
(3)精神的なサポートを受けられる
人身取引で逮捕されるかもしれないという状況で生活しなければならないのは、精神的負担が大きいものです。
弁護士に相談をすれば、今後の対応や警察の捜査の流れ、処分の見通しなどを詳しく知ることができ、精神的な不安も多少は解消されるでしょう。また逮捕されたとしても、弁護士は、取り調べのアドバイスや釈放に向けた弁護活動などで依頼者を支え、早期釈放に向けて尽力します。
5、まとめ
人身取引とは、人身の買受行為または売渡行為をする犯罪をいい、人を売り渡した者は、1年以上10年以下の拘禁刑に処せられる可能性があります。
弁護士は、逮捕前の適切な対応をアドバイスし、逮捕された場合でも罪を軽くするように働きかけます。人身取引の罪を犯してしまった、巻き込まれてしまったなどでお困りの際は、まずはベリーベスト法律事務所 長野オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています