部下から上司へのハラスメントには、どう対処すればいい? 弁護士が解説
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昨今、「逆パワハラ」と呼ばれる部下から上司へのハラスメントが問題視されています。
部下から上司へのハラスメントが起きている職場では、組織運営に支障をきたすおそれがありますので、すぐに適切な対応をすることが求められます。
今回は、部下から上司へのハラスメントに対する対処法について、ベリーベスト法律事務所 長野オフィスの弁護士が解説します。
1、部下から上司へのハラスメントの認定要件とは
部下から上司へのハラスメントは、どのような要件で認定されるのでしょうか。以下では、ハラスメント(パワハラ)の定義と、部下から上司へのハラスメントの裁判例を説明します。
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(1)そもそもパワーハラスメントとは
厚生労働省では、以下の3つの要素すべてを満たすものを「パワーハラスメント(パワハラ)」と定義しています。
- 優越的な関係に基づいて行われること
- 業務の適正な範囲を超えて行われること
- 身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること
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(2)部下から上司へのハラスメントもあり得る
厚生労働省のパワハラの定義を満たしているなら、部下から上司への言動もハラスメントと評価される可能性があります。このような部下から上司へのハラスメントのことを「逆パワハラ」と呼びます。
たとえば、以下のような行為が部下から上司へのハラスメントに該当する可能性があります。- 上司の業務命令に対し「あなたの指示には従いません」と反発する
- 上司に対し「あなたは無能だ」などと侮辱する
- 上司に聞こえるように部下が悪口を言う
- 上司が注意した際「パワハラです!」と過剰に反論する
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(3)部下から上司へのハラスメントが問題になった裁判例
部下から上司へのハラスメントが問題になった裁判例としては、以下のものが挙げられます。
① 労災不支給の取り消しに関する事件|東京地裁平成21年5月20日判決
部下が上司について「職場からお金を盗んでいる」、「女性従業員に付きまとい行為をしている」などの誹謗中傷を含むビラを作成・配布するなどして、上司は、精神的に追い詰められ自殺をしてしまったという事案について、裁判所は、うつ病の発症と自殺が業務に起因することを認め、労災不支給とした処分を取り消しました。
② 解雇の有効性に関する事件|東京地裁平成22年11月26日判決
部下の上司へのハラスメント(誹謗中傷、感情的な暴言など)を理由に解雇したところ、解雇した従業員から不当解雇であると訴えられてしまった事案です。
裁判所は、解雇された従業員が上司に対して、誹謗中傷や感情的な暴言を吐いていたことが業務妨害にあたるとして、会社による解雇を有効と判断しました。
2、ハラスメントが起こってしまった場合の対処法
部下から上司へのハラスメントが起こってしまったときは、以下のような対処法を検討するようにしましょう。
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(1)調査における対処法
部下から上司へのハラスメントの疑いが生じたときは、まずはそのような事実が存在するのか調査をする必要があります。
当事者からのヒアリングはもちろんのこと、第三者からのヒアリングや客観的な証拠収集により、きちんと事実認定を行うことが大切です。ハラスメントに関する十分な証拠が集まったら、会社内で協議をして、今後の方針を決めていきます。 -
(2)指導における対処法
事実関係の調査の結果、部下から上司へのハラスメントが認定されたときは、当該従業員に対して、業務改善指導を行います。
部下から上司へのハラスメントが行われている事案では、被害者である上司が部下に対して注意や指導をしても十分な効果が期待できませんので、別の役職者が対応することも検討しましょう。 -
(3)業務命令における対処法
上司に対するハラスメントを行った部下に対して注意や指導をしても、改善がみられない場合は、配置転換を検討してみましょう。
上司と部下との関係性や相性の悪さがハラスメントの要因であるなら、部下を別の部署に配置転換することで問題が解決する可能性もあります。 -
(4)懲戒処分における対処法
注意・指導や業務命令(配置転換)によっても、改善がみられない場合は、懲戒処分の検討をします。
懲戒処分には、戒告、譴責(けんせき)、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などの種類がありますが、いきなり懲戒解雇を選択してしまうと、重すぎる処分であるとして無効と判断されてしまうリスクがあります。そのため、基本的には軽い処分から段階的に行っていくことになります。
3、今後ハラスメントを起こさないためには何をすればいい?
部下から上司へのハラスメントが起きている職場だと組織運営に支障が生じるおそれもありますので、実際のハラスメントに対処するとともに、将来のハラスメントの防止に向けた取り組みが必要になります。
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(1)全社員への研修
ハラスメントは、上司から部下に対して行われるものとの固定観念にとらわれていると、逆ハラスメントが発生しやすくなります。
部下から上司へのハラスメントも存在することを共通認識するために、役職付きの上司や管理職だけでなく、全社員を対象としてハラスメント研修を実施するのが望ましいでしょう。全社員がハラスメントについての正しい認識を持つようになれば、部下から上司へのハラスメントを防止することが期待できます。 -
(2)部下の指導時には記録を残す
部下に対して注意や指導をしたことで、部下から「ハラスメント」だと指摘されてしまうことがあります。このような正当な注意や指導に対して、過剰にハラスメントと主張することも部下から上司へのハラスメントのひとつです。
部下からハラスメントだと主張されて労働審判や訴訟に発展すると、証拠の有無が重要になります。そのため、部下への指導時には指導内容を報告書などに残しておくなど記録を残しておくようにしましょう。
部下からハラスメントを指摘されたときでも、指導内容を記載した報告書を提示することで、労働審判や訴訟に発展する事態を回避できるでしょう。 -
(3)ハラスメント防止措置を講じる
令和2年にパワハラ防止法が施行されたことにより、職場でのパワハラ防止措置が義務化されました。
企業としては、ハラスメント防止措置として、以下のような対策を講じなければなりません。- ハラスメント方針の明確化
- ハラスメント防止に向けた周知
- 相談窓口の設置や運用
- 相談者や加害者のプライバシー保護
具体的に必要になる対策は、企業ごとに異なりますので、最適な対策を講じるためにもまずは弁護士に相談するとよいでしょう。
4、弁護士がハラスメントに関してできること
職場内でのハラスメントに関して、弁護士は以下のようなアドバイスやサポートをすることができます。
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(1)実際に生じたハラスメントについて法的アドバイスができる
部下から上司へのハラスメントがあっても、責任感の強い上司は、そのことを誰にも相談できずに自分ひとりで抱え込んでしまうことも少なくありません。しかし、部下から上司へのハラスメントもパワハラですので、それを放置してしまうと会社組織としての秩序が崩壊してしまうリスクがあります。
会社には、ハラスメントの防止に向けた対策を実施する義務があります。ハラスメントが生じている場合には、すぐに弁護士に相談して、具体的な対処法をアドバイスしてもらうことをおすすめします。
企業法務や労務問題の実績がある弁護士に相談すれば、企業がとるべきハラスメント防止策や実際のハラスメントへの対処法について適切なアドバイスを受けることができます。 -
(2)裁判になった場合の代理人になれる
部下から上司に対してハラスメントをした従業員を解雇した場合、不当解雇を理由に訴えられてしまう可能性があります。当該従業員と会社との話し合いで問題が解決しないときは、労働審判や裁判に発展することもあります。
このような事態になったとしても弁護士に依頼をしていれば、従業員との交渉だけでなく、労働審判や裁判の対応も任せることができます。 -
(3)ハラスメントの研修ができる
部下から上司へのハラスメントを防止する対策のひとつとして、全社員を対象としたハラスメント研修があります。
弁護士に依頼すればハラスメント研修の講師やサポートを受けることができます。ハラスメントに関する基礎知識や最新情報、法的観点からハラスメントのリスクや実際の事例を紹介したりすることができますので、より実践的な研修を実現できるでしょう。
お問い合わせください。
5、まとめ
職場内でのパワハラというと上司から部下に対して行われるものとの認識が一般的ですが、部下から上司へのハラスメントも存在しています。
このような逆ハラスメントを放置していると組織運営に支障をきたすおそれがあり、被害者がうつ病などの精神疾患になれば会社が責任を問われる可能性もあります。
部下から上司へのハラスメントへの対処でお困りの場合、またハラスメント防止の意識を高めたいとお考えの場合は、まずはベリーベスト法律事務所 長野オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています