有給休暇の付与における出勤率|出勤率の考え方や計算方法
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2022年度に長野県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は2万1018件でした。労働トラブルのひとつに、有給休暇の取り扱いが挙げられます。
通常、年次有給休暇は、出勤率が8割以上の労働者(従業員)に対して付与されますが、出勤率の計算を誤ると、労働基準法違反が生じるおそれがあるので注意が必要です。
本記事では、有給休暇付与の基準となる出勤率の計算方法などを、ベリーベスト法律事務所 長野オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」」(長野労働局)
1、有給休暇に関する出勤率とは?
有給休暇は6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して付与する必要があります(労働基準法第39条第1項、第2項)。
したがって、有給休暇付与の有無を判断する際には、各労働者の出勤率を計算しなければなりません。
2、有給休暇に関する出勤率の計算方法
有給休暇付与の基準となる出勤率の計算方法を解説します。
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(1)出勤率の計算式
出勤率の計算式は、以下のとおりです。
出勤率=①出勤日数÷②全労働日- ① 出勤日数:算定期間の全労働日のうち出勤した日数
- ② 全労働日:算定期間の総暦日数から就業規則等で定めた休日を除いた日数(労働者が労働契約上労働義務を課せられている日数)
出勤率の算定期間は、以下のとおりです。
<出勤率の算定期間>- 雇入れ後最初に付与される有給休暇の算定期間:雇入れ日(就業開始日)から起算して6か月間
- 2回目以降に付与される有給休暇の算定期間:付与日の前1年間
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(2)全労働日(分母)から除外される日数
以下のいずれかに該当する日は、出勤率の計算に当たって全労働日(分母)から除外されます。
- ① 使用者の責に帰すべき事由(=会社側の都合)によって休業した日
- ② 正当なストライキその他の正当な争議行為により労務が全くなされなかった日
- ③ 休日労働させた日
- ④ 法定外休日に労働させた日
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(3)出勤したものとして取り扱われる日数
以下のいずれかに該当する日は、出勤率の計算に当たって出勤したものとして取り扱われます。
- ① 業務上の負傷・疾病等により療養のため休業した日
- ② 産前産後休業をした日
- ③ 育児・介護休業法に基づき育児休業または介護休業をした日
- ④ 年次有給休暇を取得した日
これらの日は、いずれも労働者が正当な権利を行使した結果の休業・休暇なので、出勤率の計算において労働者の有利に取り扱うものとされています。
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(4)出勤率の計算例
以下の例にそって、出勤率を計算してみましょう。
<出勤率の算出条件>
入社日:2022年4月1日に入社(雇入れ)
労働期間:2023年10月1日から2024年9月30日
全労働日数:240日
勤務状況:
- 実際に出勤した日:180日
- 育児休業を取得した日:9日
- 年次有給休暇を取得した日:11日
- 私傷病により休業した日:40日
上記の例から、2024年10月1日に有給休暇が付与する必要があるかどうかを判定します。
全労働日数は240日、出勤日数は200日なので、出勤率は約83.3%(=200日÷240日)となり、8割以上です。したがってこの労働者には、2024年10月1日に有給休暇を付与する必要があります。
なお、この労働者は2024年10月1日時点で勤続2年6か月なので、パートタイム労働者(後述)を除き、付与される有給休暇の日数は「12日」となります(労働基準法第39条第2項)。
3、有給休暇と出勤率に関する注意点
有給休暇を付与するかどうかの判定に当たっての出勤率計算は、労働基準法のルールに沿って行う必要があります。
特に以下の各点については、間違いやすいところなので十分注意しましょう。
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(1)出勤率が8割未満でも、翌年度の有給休暇付与には影響しない
有給休暇付与の有無を判断するに当たり、出勤率の計算は対応する算定期間についてのみ行います。
<出勤率の算定期間>- 雇入れ後最初に付与される有給休暇の算定期間:雇入れ日から起算して6か月間
- 2回目以降に付与される有給休暇の算定期間:付与日の前1年間
算定期間における出勤率が8割未満の場合、算定期間の末日の翌日において有給休暇を付与する必要はありません。
その一方で、翌年度に付与する有給休暇については、次の算定期間の出勤率のみによって付与すべきかどうかを判断します。
これまで勤怠が非常に悪く、常に出勤率が8割を切っていた労働者でも、ある算定期間において出勤率が8割以上となった場合は、有給休暇を付与する必要がある点にご留意ください。 -
(2)遅刻・早退した日も出勤したものとして取り扱う必要がある
有給休暇の付与判定における出勤率の計算に当たっては、遅刻・早退した日も出勤日数に含める必要があります。
たとえば「半日で早退したから、0.5日出勤したものとする」などの取り扱いは認められません。早退したとしても、出勤している場合は「1日」の出勤として取り扱う必要があります。
正当な理由のない遅刻や早退が見られる労働者については、有給休暇を減らす形でペナルティーを与えるのではなく、懲戒処分など別の方法を検討しましょう。 -
(3)フレックスタイム制の労働者に関する有給休暇の取り扱い
「フレックスタイム制」とは、労働者が始業・終業の時刻を決定できる働き方です。労使協定を締結することを条件に、フレックスタイム制の導入が認められています(労働基準法第32条の3)。
フレックスタイム制では、有給休暇に関する出勤率を計算する際に、特有のルールが適用される点に注意が必要です。
フレックスタイム制では通常、「コアタイム」と「フレキシブルタイム」が設けられます。ただし、コアタイムは設けないことも可能です(スーパーフレックス制)。- ① コアタイム:必ず勤務しなければならない時間帯
- ② フレキシブルタイム:勤務するかどうかを労働者が選べる時間帯
(例)1日8時間勤務
- コアタイム:11時~15時(うち1時間休憩)
- フレキシブルタイム:6時~11時、15時~20時
フレックスタイム制では、コアタイムの出勤が義務付けられます。
ただし、コアタイムに出勤しなかった日についても、フレキシブルタイムに出勤した場合には、出勤率の計算との関係では出勤したものとして取り扱う必要があります。
またコアタイムを設けないスーパーフレックス制では、労使協定で定められた清算期間における実労働時間が、労使協定で定められた総労働時間以上である場合には、出勤率が100%とみなされます。 -
(4)パートタイム労働者に関する有給休暇の取り扱い
1週間の所定労働時間が30時間未満であり、かつ1週間の所定労働日数が4日以下である労働者(=パートタイム労働者)については、有給休暇の付与日数がフルタイム労働者と異なります。
具体的には、下表の基準に従って有給休暇の付与日数が決まります(労働基準法第39条第3項)。1週間の所定労働日数 4日 3日 2日 1日 1年間の所定労働日数 169日以上
216日以下121日以上
168日以下73日以上
120日以下48日以上
72日以下継続勤務期間 6か月 7日 5日 3日 1日 1年6か月 8日 6日 4日 2日 2年6か月 9日 6日 4日 2日 3年6か月 10日 8日 5日 2日 4年6か月 12日 9日 6日 3日 5年6か月 13日 10日 6日 3日 6年6か月以上 15日 11日 7日 3日 ※1週間の所定労働日数と1年間の所定労働日数は、有給休暇の日数が多くなる方が適用されます。
パートタイム労働者についても、出勤率8割以上の要件を満たしている場合に限り、有給休暇を付与する必要があります。
パートタイム労働者の出勤率は、以下の式によって計算します。所定労働日数から除かれる日や、出勤したものとみなされる日についてのルールは、フルタイム労働者と同様です。出勤率=基準期間における出勤日数÷基準期間における所定労働日数
4、人事労務に関するご相談は弁護士へ
企業における人事・労務管理について判断に迷う点があったら、弁護士に相談することをおすすめします。
労働問題に実績のある弁護士に相談すれば、有給休暇・残業・解雇などに関して、労働法に沿った正しい取り扱いについてアドバイスを受けられます。弁護士のアドバイスを踏まえて対応することが、労働者とのトラブルを予防するためのポイントです。
ベリーベスト法律事務所では、月額3980円からの顧問弁護士サービスもご提供しております。弁護士と顧問契約を締結すれば、人事・労務管理について弁護士にいつでも相談できます。労務コンプライアンスを強化したい企業は、まずは当事務所までお気軽にご連絡ください。
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5、まとめ
有給休暇は、法律上の要件を満たす労働者に対しては、付与しなければなりません。コンプライアンスを順守し、企業の信頼を維持するためにも、正しい方法で出勤率を計算して有給休暇を付与しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。クライアント企業のニーズに応じてご利用いただける、リーズナブルな顧問弁護士サービスもご用意がございます。
有給休暇の取り扱いや、その他の人事・労務管理に関する事柄にお悩みの企業は、お気軽にベリーベスト法律事務所 長野オフィスにご相談ください。
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