会社の備品を無許可で持ち帰り、私的利用する従業員の処分と予防法

2023年05月15日
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会社の備品を無許可で持ち帰り、私的利用する従業員の処分と予防法

会社の備品を従業員が勝手に持ち帰ってしまうことがあります。それが何度も繰り返されれば、何かしらの処分を検討することもあるでしょう。

このような従業員に対して、そもそも処分を下すことはできるのでしょうか。また、どのような処分が考えられるのかも気にかかるところです。

この記事では、従業員の備品の私的な利用や持ち帰り行為に対する懲戒処分や対策方法などについて、ベリーベスト法律事務所 長野オフィスの弁護士が解説いたします。

1、会社の備品の私的利用や持ち帰りが問題になるケースとは?

従業員が会社の備品を持ち帰ったり、個人的に利用したりする私的利用について、処分をすることはできるのでしょうか。

問題になるケースを確認していきましょう。

  1. (1)備品の私的な利用は犯罪になるケースがある

    会社の備品を私的に利用したり、持ち帰ったりした場合には、窃盗罪や業務上横領罪の成否が問題になると考えられます。窃盗罪や横領罪が成立するためには、不法領得の意思というものが必要となります。そして、不法領得の意思とは、窃盗罪においては、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用処分する意思とされ、また横領罪においては、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思とされています。

    そのため、仕事とは無関係の個人的な利用目的であったとしても、職場で一時的に利用したような場合は、会社の占有を排除する意思は認めにくく、いわゆる使用窃盗として犯罪は、原則として成立しません

    その一方で、備品を会社から持ち帰って、個人的に使ってしまったり、転売したりするようなケースは、窃盗罪や業務上横領罪が成立する可能性があります。先の例の一時的な利用とは異なり、会社の占有を排除したり、自己の所有物として処分をする意思が認められるためです。

    しかしながら、会社の備品と一口にいっても、価格帯は幅広く、また私的利用等の行為の悪質性もさまざまです。ノートやペン・鉛筆・消しゴムといった安価なものから、ノートパソコンや業務用の自動車といった高価なものまでありますし、従業員が自分自身で使うのか、転売するのか、一回だけなのか継続的に行われているかなど行為の悪質性も異なります。
    そのため、たとえ被害届を警察に提出したとしても、実際に従業員が刑事処分まで受けることになるかは、個別のケースによって変わってくるでしょう

  2. (2)懲戒処分を検討する場合

    前述のとおり、犯罪が疑われるような悪質なケースはやはり会社としても見過ごすことはできません。具体的には、以下のような要素がある場合には、処分を検討してもよいでしょう。

    • 備品が高額な場合
    • 複数回持ち帰っている場合
    • 持ち帰ったものを転売している場合


    たとえ備品が安価なものであったとしても、何度も持ち帰ったり、持ち帰ったものを転売していたりするような場合には、行為の悪質性が高いといえ、処分を検討することになります。

    また、持ち帰ったりする場合でなく、一時利用であっても処分を検討すべき場合もあるでしょう
    たとえば、業務時間中に個人的な目的のために会社のパソコンを利用しているようなケースなどです(仕事中に関係のないネットばかり見ているような事例を想定ください)。

    この場合には、前述のとおり、会社の占有や所有を侵害しているわけではなく、犯罪になるようなものではありません。しかし、会社との雇用契約上の職務専念義務(職務を誠実に遂行すべき義務)に反しているといえます。業務に支障をきたす程度に頻繁かつ長時間、私的な利用を行っている場合には、職務専念義務に違反していることを理由に、処分を検討することになるでしょう。

2、会社の備品を持ち帰る従業員にいきなり懲戒処分を下すことはできる?

何度も備品を持ち帰ったり、転売したりするなどの悪質性が高い行為をした従業員に対して、会社としては処分を検討することになります。しかし、「悪質だから」を理由に、いきなり懲戒処分をしてもよいのでしょうか。

  1. (1)懲戒処分の種類

    まず、一般的な懲戒処分の種類としては、解雇、降格、出勤停止、減給、戒告・けん責などがあります。これら懲戒処分の中から、事案に応じて適切妥当な処分を選択することになります

  2. (2)就業規則の定め

    懲戒処分を行うためには、就業規則であらかじめ根拠となる規定が定められていなくてはなりません。すなわち、備品の私的な利用や持ち帰りなどが懲戒処分を行う理由として定められていることが必要です

    たとえば、以下のような禁止規定を作り、懲戒処分の理由として定めることが考えられるでしょう。

    第○条
    会社の許可なく、業務以外の目的で会社の施設、貸与備品、商品、販売器具、事務用機器(パソコン、電話、複合機等)等を使用または社外に持ち出してはならない。
  3. (3)いきなり懲戒処分はできるのか

    それでは、備品の持ち出しなど就業規則に定める懲戒事由に該当する行為があった場合に、いきなり懲戒処分を行うことはできるのでしょうか。

    懲戒処分を行うには、懲戒処分のもとになった従業員の行為の重大性との関係で、懲戒処分の内容が不相当に重い場合には、社会通念上相当と認められず懲戒権を濫用したものとして、無効と判断される可能性があります。
    そのため、高価品の持ち出しや転売など悪質性が高く行為が重大な場合を除いて、いきなり懲戒処分をすることは控えたほうがいいでしょう

    たとえば、会社の備品であるノートを自分で利用するために持ち帰った従業員に対して、いきなり懲戒処分を行った場合には、従業員が行った行為の悪質性に対して処分が重過ぎるとして、無効と判断される可能性があります。

    懲戒処分の規定に該当したからといっていきなり懲戒処分するのではなく、最初は口頭注意や始末書の提出程度にとどめたほうがよいケースも多いでしょう。その頻度・程度を踏まえて、懲戒処分を行うのか、口頭注意にとどめるのかなどを検討する必要があります。それでも繰り返し違反行為が行われた場合には、いよいよ懲戒処分を検討するになります。

    一方で、悪質性の高いケースはどうでしょうか。
    たとえば、継続的に高価な備品を持ち帰った上で転売し、自らの利益にしていることが発覚したケースなどは、発覚当初より懲戒処分を検討し、従業員が行った行為の悪質性に適した種類の懲戒処分を行うことになります
    また、損害額や悪質性を考慮し、刑事告訴を行って捜査や刑事処分を求めることも検討することもあるでしょう。

3、正しく会社の備品を利用してもらうための対策・方法

会社の備品を私的に利用することについて、懲戒処分の対象になることや、犯罪に該当することの意識がない従業員も見受けられます。そこで、会社としては、従業員に正しく備品を利用してもらうための対策・方法を考えなくてなりません。

  1. (1)ルール化と周知

    前述のとおり、備品の持ち帰りなどを理由に懲戒処分を行うためには、懲戒処分の理由として就業規則などに定めなくてなりません
    また、会社としての備品利用に関する細目を定めたルールや規則も定めるとよいでしょう(特に、貸与パソコン、携帯電話、自動車など)。

    そのうえで、それらの規定を社内に十分周知し、また、犯罪にもあたり得ることを伝える研修会などの開催も考えられます。

  2. (2)環境の整備

    備品を持ち出しできない環境を作ることも有効でしょう
    例えば、職場内への私物の持ち込みを禁止することにより、従業員が鞄などに入れて備品を持ち出しできないようにする、パソコンなどの重要な情報資産や貴重品についてはワイヤーを付けたり、保管して鍵をかけるなど、物理的に持ち出しができない環境を整備することも有効な手段となります。

  3. (3)所持品検査の実施

    その他の対策として、業務上多くの現金や貴重品などを扱う場合は、所持品検査制度を導入しているケースもあります。このような所持品検査制度を、取り入れることも対応方法のひとつです。

    ただし、所持品検査は、従業員のプライバシーを侵害する危険が大きいため、一定の厳格な条件を満たしたうえで実施されなければなりません

    最高裁は、所持品検査の適法性について、以下のように判示しています(最二小昭43年8月2日)。

    • 就業規則やその他の明示の根拠があること
    • 必要とする合理的理由に基づいていること
    • 一般的に妥当な方法と程度で、制度として画一的に実施されるものであること

4、社内トラブルを弁護士に相談するメリット

備品の持ち帰りなどを理由に懲戒処分を行うためには、就業規則などに懲戒事由として定めなくてなりません。このような規定の作成は、弁護士に相談するとよいでしょう。

さらに、実際に、備品の私的な利用や持ち帰りが発生してしまった場合には、その証拠を集めたり、対象となった従業員に対するヒアリングをしたりする必要があります。事実の収集と認定を慎重に行い、個別事情に応じて、懲戒処分を下せるか否か、懲戒処分を下せるとして、妥当な処分の種類を選択し、結論を出さなければなりません。

問題が判明した際には早期に弁護士に相談することで、より充実した証拠収集や判例実務に即した判断が可能になります。また、顧問弁護士と契約しておけば、有事の際、社内の事情に詳しい弁護士へ相談ができますし、日ごろからサポートを受けることもできるでしょう。

5、まとめ

従業員による備品の私的利用や持ち帰りといったトラブル事案では、事実や証拠の収集、事実の認定、事実を評価し処分を下す、といったプロセスを踏む必要があります。それぞれの局面で、適切に対応しなくてはなりません。また、懲戒処分を行う前提として、就業規則などに根拠が定められている必要があります。

懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うとしてどの処分にするべきかの判断は、これまでに蓄積された裁判例などの分析が必要となるため、弁護士への相談をおすすめします。

ぜひお気軽に、ベリーベスト法律事務所 長野オフィスへご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています