元夫が死亡したら養育費はどうなる? 未払い養育費の請求について解説
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元夫が死亡してしまった場合、養育費の支払い義務は消滅し、支払いもなくなります。
しかし、養育費に未払いがある場合には、再婚相手や両親など元夫の相続人に対して支払請求できる可能性があります。また、遺族厚生年金を受け取れるケースもあるため、諦めずにしっかりと調べることが大切です。
この記事では、元夫が死亡した場合に養育費はどうなってしまうのか、相続人に請求できる場合や、遺族年金が受け取れる場合などについて、ベリーベスト法律事務所 長野オフィスの弁護士がわかりやすく解説していきます。
1、元夫が死亡したら養育費はどうなる?
養育費を支払っている元夫が死亡した場合、養育費の支払義務が消滅してしまうため、養育費を受けとることはできなくなります。
民法には、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の“一身に専属したもの”は、この限りでない」と規定されています(民法第896条)。
一身に専属した権利=「一身専属権」の主な例として挙げられるのが、親権や扶養請求権などです。養育費は、未成熟の子どもが非監護親に対して生活費等を請求する扶養請求権にあたります。
そのため、養育費支払請求権は、元夫が亡くなった場合には、一身専属権として相続されずに消滅してしまうことになるのです。
2、元夫が死亡した際に養育費の未払いがある場合は?
元夫に養育費の未払いがあった場合には、次に解説するように、相続人に未払分の一部を請求できる可能性があります。
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(1)未払いの養育費は相続財産となる
元夫が亡くなった場合、養育費支払義務はなくなります。
しかし、支払期日が過ぎているにもかかわらず支払われていない養育費は、相続される財産となります。そのため養育費に未払いがあれば、元夫の相続人に対して支払請求できる可能性があります。
前述のとおり、相続の対象となるのは、「被相続人の財産に属した一切の権利義務」であるため、プラスの財産のみならずマイナスの財産も含まれます。そして、支払期日を経過した未払いの養育費は、金銭債務となります。
つまり、支払いが遅れている養育費については。金〇〇万円という形で金銭債務になっているため、「被相続人が負っている債務」として相続の対象となるのです。
したがって、未払いの養育費を相続した相続人に対して、その一部を請求できる可能性があります。 -
(2)請求できるのは未払い養育費の一部のみ
未払い養育費は、その一部だけしか請求できないので注意が必要です。
なぜ一部のみの請求しかできないかは、元夫との間の子ども自身も元夫の相続人の地位にあることが関係しています。
たとえば、前妻には元夫との間に子どもAがおり、離婚の際に合意された養育費の支払いには履行遅滞になっているものがあるとします。元夫には、再婚相手Bとの間に子どもCがおり、最近元夫が亡くなったという場合、相続人A、B、Cの相続分は以下のようになります。- 再婚相手B:2分の1
- 前妻との子どもA(養育費を請求できる子):4分の1
- 再婚相手との子どもC:4分の1
Aは養育費支払請求をする債権者である一方で、相続によって債務を承継した結果、債務者としての地位をも引き継いだことになります。
民法には、「債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は消滅する」と規定されています(民法第520条)。したがって、Aが相続した債務については、民法上の混同によって消滅することになります。
以上より、本件においてAの親権者である前妻が請求できる未払いの養育費は、混同によって消滅していないBの2分の1とCの4分の1を合わせた、合計4分の3ということになります。 -
(3)相続人にも養育費を請求できない場合がある
養育費債務を相続した相続人が相続放棄をした場合には、相続人にも請求することはできなくなります。相続放棄の手続きをした者は、その相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法第939条)。
相続放棄をするには、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に必要書類を提出する必要があります。相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内」に行う必要があります(民法第915条1項参照)。
また、養育費には時効があります。養育費は通常、債権者(親権者)が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないと、時効により消滅してしまいます(民法第166条1項1号)。ただし、調停、審判、裁判上の和解などによって確定している場合には、時効期間は10年に延長されています(同169条1項)。
いずれにしても消滅時効期間が経過してしまうと、請求できなくなってしまいます。
3、子どもは遺族年金が受け取れる可能性がある
養育費を支払っていた元夫が亡くなった場合、子どもは「遺族年金」を受け取れる可能性があります。
遺族年金には、「遺族厚生年金」と「遺族基礎年金」があります。
「遺族厚生年金」とは厚生年金保険の被保険者または被保険者であった方が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受給できる年金のことをいいます。
遺族厚生年金の受給対象者の優先順位は、以下の通りになっています。
- ①「子のある配偶者」
- ②「子」
- ③「子のない配偶者」
- ④「父母」
- ⑤「孫」
- ⑥「祖父母」
そのため、元夫が再婚していたとしても、再婚相手との間に子どもがいない場合には、前妻との子どもが18歳の年度末まで、遺族厚生年金を受け取ることができます。
また、生計を維持されていた子どもは、18歳の年度末まで、遺族基礎年金を受け取ることもできます。
もっとも、後妻との間に遺族年金を受け取れる子どもがいる場合には、調整が必要となりますので注意が必要です。
遺族年金は日本年金機構へ請求する必要があります。
4、養育費の請求は弁護士に相談を
亡くなった元夫に養育費の未払いがあった場合や、遺産があるような場合には、弁護士に相談されることをおすすめします。弁護士に相談するメリットには以下のようなものがあります。
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(1)未払い分の養育費を請求したい際に手続きなどを任せられる
未払い分の養育費の請求を弁護士に依頼すれば、当事者の間に入ってやり取りや交渉をしてもらうことができます。元夫が亡くなった場合、これまで連絡をとったことがない相続人に連絡する必要がある場合もあります。
そのような場合でも弁護士が全ての手続きを対応してくれるため、ご本人の手続き的・精神的な負担はかなり軽減されるはずです。 -
(2)子どもの相続について法的なアドバイスを受けられる
弁護士に相談すれば、子どもの相続についても適切なアドバイスを受けることができます。
養育費を受け取っていたどもは、元夫が亡くなった場合には、第1順位の法定相続人として元夫の遺産を相続する権利があります。仮に他の相続人が子どもを無視して遺産分割を進めようとしているのであれば、適切に子どもの取り分を主張する必要があります。
弁護士に依頼すれば、養育費と併せて、子どもの相続に関しても適切なアドバイス・サポートを受けることができます。
お問い合わせください。
5、まとめ
以上、元夫が亡くなると養育費支払義務はなくなるため、今後は養育費を受け取ることはできなくなります。ただし、未払いの養育費があった場合には、元夫の相続人に請求できる可能性があります。
未成年の子どもが相続人になる場合には、複雑な手続きが必要となる可能性もあります。まずはベリーベスト法律事務所 長野オフィスまで、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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