労災保険から受け取れる特別支給金とは? 概要と請求方法
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長野労働局が公表している労働災害発生状況に関する統計資料によると、令和4年に長野県内で発生した労働災害の件数は、2294件でした。そのうち、長野労働基準監督署管内で発生したものは、435件でした。
仕事中や通勤中の出来事により、ケガや病気になってしまった場合には、労災保険からさまざまな給付金の支払いを受けることができます。また、労災保険からの給付金に上乗せして特別支給金というお金も受け取ることができるため、被災労働者としてはこれらの補償を受けることにより、ある程度までは被害の回復を図ることができます。
本コラムでは、労災保険から受け取れる特別支給金の概要と請求方法について、ベリーベスト法律事務所 長野オフィスの弁護士が解説します。
1、労災の特別支給金とは?
まず、労災保険における特別支給金について、概要を解説します。
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(1)労災とは
労災(労働災害)とは、労働者が仕事や通勤中の出来事が原因で、ケガをしたり病気になったりすることや、死亡したりすることを指します。
このうち、仕事中の負傷、病気、障害、死亡を「業務災害」といい、通勤中の負傷、病気、障害、死亡を「通勤災害」といいます。
このような労災による被害を受けた場合には、労働基準監督署による労災認定を受けることで、労災保険からの給付金を受け取ることができます。
なお、仕事や通勤以外の出来事が原因でケガや病気になった場合には、健康保険の傷病手当金が支給されることになります。 -
(2)労災保険の支給対象となる要件
労働基準監督署から労災認定を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
① 業務遂行性
業務遂行性とは、労働者が労働契約に基づく事業主の支配下にある状態をいいます。
労働者が事業場内で仕事をしている場合はもちろん、休憩時間中であっても事業場内で行動している場合は、事業主の支配下にあるといえ業務遂行性が認められます。
また、出張や外回りに出かけているなど事業主の管理下を離れている場合でも事業主の支配下にあるといえますので、業務遂行性が認められます。
② 業務起因性
業務起因性とは、業務に起因して負傷、病気、障害、死亡が生じたことをいいます。
労働者が本来の作業やそれに付随する作業をしているときに発生した災害は、特別の事情がない限りは、業務起因性が認められます。
他方で、仕事中であっても個人的な恨みで他人から暴行を受けた場合や仕事中の私的行為によりケガをしたような場合には、業務起因性は否定されます。 -
(3)特別支給金の概要
特別支給金とは、労働者災害補償保険法29条に基づき、社会復帰促進等事業の一環として支給されるお金です。
簡単にいえば、「労災保険に上乗せして支払われるお金」ということです。
特別支給金は、労災保険の給付金とは計算方法や支給額が異なりますが、支給にあたっての要件は労災保険と共通であるため、労災保険給付の要件を満たしていれば労災保険給付と一緒に特別支給金も支払われます。
なお、特別支給金は福祉的な性格が強いため、労災保険給付とは異なり損益相殺の対象とはなりません。たとえば、労働者が事業主に対して損害賠償請求権を有していても、特別支給金との調整はされません。
2、特別支給金の内訳と受け取れる金額の目安
特別支給金には、以下の九つの種類があります。
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(1)休業特別支給金
休業特別支給金とは、傷病による療養のために働くことができない場合に支給されるお金です。
休業4日目以降から支給されて、休業1日につき給付基礎日額の20%相当が支給されます。
「給付基礎日額」とは、労働基準法の平均賃金に相当する金額をいいます。
具体的には、労災事故発生日の直前3か月間に支払われた賃金総額を、その期間の歴日数で割ったものです。
なお、労災保険からは休業給付として給付基礎日額の60%相当が支払われるため、休業特別支給金と合わせると給付基礎日額の80%相当が補償されることになります。 -
(2)障害特別支給金、障害特別年金、障害特別一時金
障害特別支給金、障害特別年金、障害特別一時金とは、労災による障害について障害等級認定を受けた場合に支給されるお金です。
支給される金額は認定された障害等級(1級~14級)によって異なり、障害等級が1級~7級の場合は障害特別支給金と障害特別年金が支給され、障害等級が8級~14級の場合は障害特別支給金と障害特別一時金が支給されます。
たとえば、障害等級1級が認定された場合には、障害特別支給金として342万円が一時金として、障害特別年金として算定基礎日額の313日分が年金として支給されます。
また、障害等級8級が認定された場合には障害特別支給金として65万円が、障害特別一時金として算定基礎日額の503日分が一時金として支給されます。 -
(3)傷病特別支給金、傷病特別年金
傷病特別支給金、傷病特別年金とは、労災による傷病が療養開始後1年6か月を経過しても治癒せず、傷病の程度が傷病等級(1級~3級)に該当する場合に支給されるお金です。
支給される金額は、認定された傷病等級によって異なります。
たとえば、傷病等級1級が認定された場合には、傷病特別支給金として114万円が一時金として、傷病特別年金として算定基礎日額の313日分が年金として支給されます。 -
(4)遺族特別支給金、遺族特別年金、遺族特別一時金
遺族特別支給金、遺族特別年金、遺族特別一時金とは、労災により労働者が死亡した場合に、一定の範囲の遺族に対して支給されるお金です。
遺族特別支給金は、労災保険の遺族給付の受給権者に支払われ、その金額は300万円とされています。
遺族特別年金は、労災保険の遺族年金の受給権者に支払われ、受給権者の人数に応じて、算定基礎日額の153日分~245日分が年金として支払われます。
遺族特別一時金は、遺族一時金の受給権者に対して支払われ、遺族年金の受給資格者がいないときは算定基礎日額の1000日分、遺族年金の受給権者がすべて失権して、支払われた年金額が給付基礎日額の1000日分に達していないときは、その差額が一時金として支払われます。
3、特別支給金はいつ振り込まれるのか
以下では、特別支給金を申請するための手続きや、振り込まれる時期について解説します。
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(1)特別支給金の申請方法
特別支給金の支払いを受けるためには、被災労働者またはその遺族の方が特別支給金の申請を行わなければなりません。
具体的には、所定の請求書を労働基準監督署に提出することで申請ができます。
もっとも、特別支給金の申請用紙と労災保険の申請用紙は、一体のものになっていますので、労災保険の申請をすれば、特別支給金の申請も行ったことになります。
そのため、とくに意識せずに特別支給金の申請を行っているという方がほとんどでしょう。 -
(2)特別支給金の給付時期の目安
特別支給金は、労災保険の給付金と一緒に指定された口座に振り込まれます。
そのため、特別支給金の支払い時期は、労災保険の給付金の支払い時期と共通になります。
たとえば、休業給付であれば請求手続きを行ってから1か月程度で振り込みがなされますので、休業特別支給金も同じタイミングで振り込まれるでしょう。
4、会社の責任を問うなら弁護士に相談を
もし労災に関して会社の責任を問う場合には、まずは弁護士に相談してください。
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(1)労災保険給付や特別支給金だけでは十分な補償とはいえない
労働基準監督署による労災認定を受ければ、労災保険給付や特別支給金の支払いを受けることができます。
しかし、これらの給付金には、慰謝料が含まれておらず、休業補償や逸失利益も十分な補償とはいえません。
十分な補償を得るためには、労災とは別途に、会社の責任を追及する必要があります。 -
(2)会社に労災の責任を問うことができるケースとは
労災が発生して、労災認定を受けたとしても、それだけでは会社に対して責任追及を行うことはできません。
会社に労災の責任追及をするためには、会社側の安全配慮義務違反または使用者責任があったといえなければならないのです。
会社には労働者の安全・健康に配慮する義務(安全配慮義務)があるため、危険な作業をさせる際に必要な安全管理などを怠ったような場合には、安全配慮義務違反が認められる可能性があります。
また、他の労働者の不注意によりケガをさせられたような場合には、労働者を雇用する会社には使用者責任があります。
したがって、これらの場合には、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。 -
(3)会社への責任追及にあたっては弁護士のサポートが不可欠
労災手続き自体は、被災労働者本人でも行うことができます。
しかし、会社に対して労災の責任追及をする際には、安全配慮義務違反や使用者責任の立証をしなければならないため、法律に関する専門的な知識が必要になります。
労災の被害にあった場合には、まずは、専門家である弁護士に相談してください。
弁護士に依頼すれば、会社の責任を追及するのに必要な証拠の収集や会社との交渉、裁判など、一連の手続きや対応を任せることができます。
5、まとめ
労働基準監督署による労災認定を受けることで、労災保険から給付金が支払われます。
また、労災保険給付に上乗せして特別支給金も支払われるため、ある程度までは被害の回復を図ることができます。
しかし、これらの補償だけでは、被災に見合う十分な補償とはいえません。
労災に関して会社に責任が存在する場合には、慰謝料を請求できる可能性があります。
ただし、会社の責任を追及して慰謝料を請求するために、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
労災の被害に遭われた方は、まずはベリーベスト法律事務所 長野オフィスまで、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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