定期贈与を回避する方法は? 連年贈与・暦年贈与との違いも解説

2025年05月28日
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定期贈与を回避する方法は? 連年贈与・暦年贈与との違いも解説

毎年少しずつ贈与をする「暦年贈与」は、相続税対策として広く行われています。しかし、不適切な方法で暦年贈与をすると、税務署に「定期贈与」と判断され、多額の贈与税が課されてしまう可能性があることをご存じでしょうか。

なお、長野市が公表する「長野市統計」によると、市民相談として受付された法律相談のうち、相続贈与関係の相談は111件で、一定の方が相続に悩まれているようです。

本コラムでは、生前贈与に当たって注意すべき「定期贈与」の概要から、税金対策となりうる方法について、ベリーベスト法律事務所 長野オフィスの弁護士が解説します。


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1、定期贈与とは?

「定期贈与」とは、毎年一定額の金銭を給付することをいいます。
たとえば、10年間にわたって毎年110万円を贈与する旨を合意するようなケースが定期贈与に該当します。

  1. (1)定期贈与とみなされると、一括で贈与税が課される

    定期贈与は、主に贈与税との関係で問題になります。

    贈与税には年間110万円の基礎控除が設けられています。1月1日から12月31日までに受けた贈与の総額が110万円以下であれば、贈与税は課されません。
    この贈与税の基礎控除を利用して、毎年110万円以下の贈与を行って無税で財産を移す「暦年贈与」が広く行われています。暦年贈与を行えば、最終的に残る相続財産の額を減らせるため、相続税の節税につながります。

    暦年贈与は合法的な節税手法ですが、最初の段階で「毎年○万円を贈与する」という合意がなされた場合は、暦年贈与ではなく定期贈与に該当します。

    定期贈与の場合、合意の時点で総額の一括贈与を受けたものとみなされます。
    たとえば「10年間にわたって毎年110万円を贈与する」という合意がなされた場合は、最初の年に1100万円の贈与を受けたものとみなされ、贈与税が課されてしまいます。

    贈与税の税率は、下表のとおりです。

    <特例税率:贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者が、直系尊属(父母・祖父母など)から受ける贈与について適用>
    基礎控除後の課税価格
    (贈与額から110万円を差し引いた金額)
    税率 控除額
    200万円以下 10%
    400万円以下 15% 10万円
    600万円以下 20% 30万円
    1000万円以下 30% 90万円
    1500万円以下 40% 190万円
    3000万円以下 45% 265万円
    4500万円以下 50% 415万円
    4500万円超 55% 640万円


    <一般税率:特例税率が適用されない贈与(兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者(18歳未満)である場合)について適用>
    基礎控除後の課税価格
    (贈与額から110万円を差し引いた金額)
    税率 控除額
    200万円以下 10%
    300万円以下 15% 10万円
    400万円以下 20% 25万円
    600万円以下 30% 65万円
    1000万円以下 40% 125万円
    1500万円以下 45% 175万円
    3000万円以下 50% 250万円
    3000万円超 55% 400万円


    前掲のケースは、暦年贈与であれば無税となりますが、定期贈与に当たる場合は特例税率で207万円、一般税率で271万円の贈与税が課されてしまいます

    暦年贈与と定期贈与のどちらに当たるかは、贈与の実態に応じて判定されます。特に、同じ時期に同じ金額を贈与し続けている場合などには、定期贈与と判断されるリスクが高まるので注意が必要です。

  2. (2)定期贈与と連年贈与の違い

    定期贈与と似て非なるものとして「連年贈与」があります。連年贈与とは、毎年異なる条件で贈与(毎年繰り返される贈与のこと)を行うことをいいます。

    贈与税の基礎控除の範囲内で毎年贈与を行う「暦年贈与」は、連年贈与の一種です。連年贈与は毎年行われますが、各年において個別に贈与契約を締結します。

    これに対して定期贈与は、最初の段階で毎年一定額の贈与をすることを合意します。つまり贈与契約の締結は1回のみで、毎年の贈与はその契約に基づいて実施されるものです。

    連年贈与の場合は、毎年の贈与について贈与税の基礎控除を受けることができます。
    他方で定期贈与の場合は、最初の年に一括で贈与税が課されるため、基礎控除の恩恵を十分に受けることができません。

2、贈与税に関する税務署の調査方法

贈与税に関しては、税務署はさまざまな方法で調査を行っています。一例として、以下のような調査方法が用いられています。

  • 預貯金口座の入出金記録を調べる
  • 源泉徴収票や支払調書などから収入を調べる
  • 高価な買い物をした場合は、その内容を調べる
  • 取引先や利用した店舗に対して税務調査を行った際に、得られた情報をたどる
など


贈与の事実を隠そうとしても、上記のような方法によって税務署に突き止められてしまう可能性が高いと考えられます。
また、暦年贈与を毎年行っている場合も、税務署にとって有利な解釈で定期贈与だと主張され、生前贈与加算されてしまうことがあるので注意が必要です。

贈与税の更正決定は、原則として申告書の提出期限(=贈与を受けた年の翌年3月15日)から6年を経過する日まで行うことができます(相続税法第37条第1項)。
また、脱税行為が認められる場合は、更正決定の期限が7年間に延長されます(同条第4項)。

贈与税の調査についても、過去6年間または7年間さかのぼって行われる点に留意しておきましょう

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3、定期贈与とみなされることを回避する方法

暦年贈与を受けていたつもりが、税務署によって定期贈与とみなされると、思わぬ多額の贈与税を課されてしまいます。

暦年贈与が定期贈与とみなされることを防ぐには、以下の対策を講じましょう

  1. (1)贈与の時期や金額を少しずつ変える

    贈与の時期や金額を毎年少しずつ変えると、最初の段階ですべての贈与について合意していたとは考えにくいため、定期贈与と判断されにくくなります。

    (例)
    贈与の年 贈与の日付 贈与額
    2025 2月1日 110万円
    2026 3月3日 105万円
    2027 4月5日 108万円
    2028 6月10日 110万円
    …… …… ……
  2. (2)贈与契約書を作成する

    毎年贈与を受けるたびに贈与契約書を作成すれば、贈与1回ごとに別個の合意がなされていると考えられるため、定期贈与と判断されにくくなります。

    国税庁のタックスアンサーにおいても、贈与者と受贈者の間で毎年贈与契約を締結する場合は、各年の贈与について贈与税の基礎控除を受けられる旨が示されています。

    参考:「No.4402 贈与税がかかる場合 毎年、基礎控除以下の贈与を受けた場合(Q1)」(国税庁)

    特に、基礎控除の上限である110万円の贈与を毎年受ける場合には、必ずすべての贈与について贈与契約書を作成しておきましょう。

  3. (3)毎年贈与税の申告をする

    毎年贈与税の申告をすることも、定期贈与とみなされることを回避するための対策のひとつです。毎年贈与税の申告をしていれば、各年において個別に贈与を受けていると考えられるため、定期贈与と判断されにくくなります

    贈与額が基礎控除額以内である場合は、税額が発生しないので、贈与税の申告をすることができません。したがって、あえて贈与税の申告をする場合は、税額が発生するように、1年間で110万円を少し超える贈与を受ける必要があります。

    たとえば111万円の贈与を受けた場合は、基礎控除後の1万円に対して10%の贈与税が課されるので、贈与税額は1000円で済みます。

    ただし、わざわざ申告の手間をかけて、贈与税を支払ってまでこのような方法をとる方は少ないため、基本的には、毎年贈与契約書を作成しておけば十分でしょう。

4、相続トラブルを未然に防ぐには、弁護士に相談を

将来の相続に備えて、早い段階から家族に財産を移したり、トラブル防止の対策を講じたりするのは非常によいことです。しかし、不適切な方法で相続対策を行うと、思わぬトラブルが生じてしまうおそれがあります。

効果的に相続対策を行うためには、弁護士のアドバイスを受けましょう。弁護士に相談することには、主に以下のようなメリットがあります

  • 税負担を抑えながら家族に財産を移す方法についてアドバイスを受けられる
  • 贈与契約書の作成を依頼できる
  • 将来の相続トラブルのリスクを分析したうえで、適切なトラブルの予防策についてアドバイスを受けられる
  • 自分の意思を適切に反映し、相続トラブルの予防にも役立つ遺言書の作成を依頼できる
  • 弁護士が遺言執行者に就任し、遺言書の内容を確実に実現してもらえる
  • 将来的に万が一相続人の間でトラブルが発生しても、同じ弁護士へスムーズに相談できる
など


生前の相続対策は、早い段階で弁護士に相談することによって選択肢の幅が広がります。特に税理士と連携している弁護士に相談すれば、贈与契約書や遺言書の作成に加えて、贈与税の申告やタックスプランニングについても依頼できるので便利です。

家庭の状況に合った相続対策を行いたい方は、弁護士にご相談ください。

5、まとめ

毎年続けて行っていた贈与が定期贈与に当たると税務署に判断されると、多額の贈与税を追徴されてしまうおそれがあります。定期贈与と判断されることを防ぐためには、毎年贈与契約書を作成するなどの対策を行いましょう。

生前の段階で相続対策を行うことは、財産の有効活用や相続トラブルの予防などの観点から有益です。どのような方法で相続対策を行うのがよいかは家庭の状況によって異なるので、弁護士のアドバイスを受けましょう。

ベリーベスト法律事務所 長野オフィスでは、生前の相続対策に関するご相談を承っております。遺言書の作成や生前贈与などを通じて、家族に最良の形で財産を引き継ぐ方法などをわかりやすくアドバイスすることが可能です。
また、ご要望があれば、グループ傘下の税理士法人と連携をとり、相続税・贈与税関連の知見が豊富な税理士が総合的に考慮したタックスプランニングを行えます。将来の相続を見据えた対策を行いたい方は、ぜひ早い段階でベリーベスト法律事務所 長野オフィスの弁護士にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています