自分以外の相続人が遺産を渡してくれないときの対処法を解説
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遺産相続に関するトラブルでも頻出するケースとして、「相続人の一部が遺産を独り占めして、渡してくれない」というものがあります。
もし他の相続人が遺産を渡してくれない(遺産を開示しない)場合には、弁護士に依頼したうえで、法律的な手段を通じて開示などを求めましょう。
本コラムでは、他の相続人が遺産を渡してくれない場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 長野オフィスの弁護士が解説します。
1、そもそも遺産を相続できるのか? まずは自分の相続権を確認
遺言書で受遺者(遺産を受け取る人)として指定されているケースを除いて、遺産を相続するためには相続権を有することが必要です。
まずは、ご自身に相続権があるかどうかを確認することから始めましょう。
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(1)相続権を有するのは、配偶者と相続順位の最上位者
相続権を有するのは、被相続人の配偶者(民法第890条)、および以下の相続順位に従った最上位者です(同法第887条第1項、第889条第1項)。
- 第1順位:被相続人の子
- 第2順位:被相続人の直系尊属(被相続人と親等が近い者が先順位)
- 第3順位:被相続人の兄弟姉妹
自分より上位の相続人がいる場合は、相続権を取得できません。
たとえば、被相続人に子と兄弟姉妹がいるとします。
この場合、最上位者である被相続人の子が相続人となる一方で、被相続人の兄弟姉妹は相続人になりません。 -
(2)相続権を失う場合もある|相続欠格・相続廃除
相続人であっても、「相続欠格」事由に該当し、または家庭裁判所によって「相続廃除」の審判を受けた場合には相続権を失います。
① 相続欠格
相続に関してきわめて悪質な行為をした相続人は、法律上当然に相続権を失います(民法第891条)。
相続欠格事由は、以下の五種類です。
(a)被相続人・先順位相続人・同順位相続人のいずれかを故意に死亡させ、または死亡させようとしたために刑に処せられたこと
(b)被相続人が殺害されたことを知りながら、告発または告訴をしなかったこと(是非の弁別がない場合、および殺害者が自己の配偶者または直系血族の場合を除く)
(c)詐欺・強迫によって、遺言やその撤回・取り消し・変更を妨げたこと
(d)詐欺・強迫によって遺言をさせ、または遺言の撤回・取り消し・変更をさせたこと
(e)被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿したこと
② 相続廃除
被相続人に対する虐待・重大な侮辱、その他の著しい非行があった推定相続人は、被相続人の請求に基づき、家庭裁判所の審判によって相続権を失います。遺言による推定相続人の廃除も認められています(民法第892条、第893条)。
なお、被相続人は存命中いつでも、死後も遺言によって、推定相続人の廃除の取り消しを家庭裁判所に請求することができます(民法第894条)。
相続欠格または相続廃除に該当するケースは稀ですが、念のため、ご自身がいずれにも該当しないということを確認しておいてもいいかもしれません。
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(3)代襲相続の要件も要確認
代襲相続の発生によってご自身が相続権を取得する場合や、ご自身ではなく他の相続人が先に相続権を取得する場合もあるということに注意が必要です。
代襲相続とは、法定相続人が死亡・相続欠格・相続廃除に該当する場合に、その法定相続人の子が代わりに相続権を取得する制度です。
代襲相続は、以下の要件をどちらも満たす場合に発生します。- ① 相続人が死亡(※)・相続欠格・相続廃除のいずれかによって相続権を失ったこと
※相続発生前に死亡した場合に限る - ② ①によって相続権を失った者の子が、被相続人の直系卑属(例:孫、ひ孫など)または甥もしくは姪であること
代襲相続が発生する場合、相続権を失った者の子が相続権を取得します。
たとえば相続発生前に被相続人の子が死亡した場合、その死亡した子の子、すなわち被相続人の孫が相続権を取得します。
被相続人の直系尊属や兄弟姉妹よりも先に、被相続人の孫が相続人となるという点に注意してください。
なお、相続放棄がなされた場合には代襲相続が発生しない、という点にも留意しましょう。 - ① 相続人が死亡(※)・相続欠格・相続廃除のいずれかによって相続権を失ったこと
2、他の相続人が遺産を独り占め|対処法は?
以下では、遺産を管理している他の相続人が「独り占めしてやろう」といった意図で遺産分割を拒否している場合の対処法を解説します。
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(1)心当たりのある金融機関への照会・名寄せ帳の確認など
被相続人の預貯金口座については、相続人が単独で取引履歴の開示を請求することができます。
生前の被相続人から預貯金口座がある金融機関の支店を聞いていた場合には、その支店に対して開示請求を行いましょう。
また、市区町村役場で名寄せ帳を取得すれば、その市区町村において、被相続人が生前所有していた不動産をすべて確認することができます。
その他にも被相続人の遺産の所在について何らかの手がかりがあれば、弁護士のサポートを受けて照会などを行いながら、できる限り遺産を把握するようにしましょう。 -
(2)遺産分割調停・審判
他の相続人が遺産分割を拒否している場合には、遺産分割調停や審判を申立てることにより遺産分割を行うことができます。
遺産分割調停・審判では、民事訴訟と同様に文書提出命令の申立てが認められています。
家庭裁判所によって文書提出命令が発令されれば、他の相続人に対して、遺産に関する資料の提出を義務付けることが可能です。
また、文書提出命令の発令に至らなくても、調停委員や裁判官から説得してもらえば、遺産に関する資料が任意に提出される可能性もあります。
遺産に関する資料が開示されれば、その資料に基づいて話し合い、裁判官の判断を得て遺産分割を行うことができます。 -
(3)すでに遺産を使い込まれていた場合の対処法
「遺産を独り占めしている他の相続人が、すでに遺産を使い込んでしまっている」という事態もあり得ます。
このような場合には、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求により、当該相続人が得た利益を遺産に戻させることを検討しましょう。
また、遺産を使い込んだ者以外の相続人全員の同意があれば、使い込まれた遺産が存在するものとみなしたうえで遺産分割を行うこともできます(民法第906条の2)。
3、遺言書で相続分が減らされた(ゼロにされた)|対処法は?
被相続人は遺言書によって、遺産を相続させる相手や金額などを自由に指定できます。
しかし、遺言書によってご自身の相続分が減らされたりゼロにされたりしたとしても、以下に解説するような方法によって、一定の遺産を相続できる可能性があります。
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(1)遺言の無効を主張する
遺言書の方式が民法の規定に従っていない場合や、遺言当時において被相続人に遺言能力がなかった場合には、その遺言書は無効となります。
遺言書が無効であれば、その内容に基づく相続や遺贈も無効であり、すべての相続財産は遺産分割の対象となります。
遺言書の方式や遺言能力について疑いがある場合には、専門家である弁護士に確認を依頼しましょう。 -
(2)遺留分侵害額請求を行う
兄弟姉妹以外の相続人には、相続できる遺産の最低保障額である「遺留分」が認められています。
遺言書によって偏った遺産配分がなされた結果、ご自身の取得する遺産額が遺留分を下回った場合には、不足額に相当する金銭の支払いを求める「遺留分侵害額請求」ができます(民法第1046条)。
遺留分侵害額請求を行えば、遺留分相当の経済的利益を最低限確保することができます。
遺留分侵害額請求にあたっては、遺留分額や侵害額の正確な計算、交渉や訴訟手続きへの対応などが必要となるため、弁護士への依頼をおすすめします。
4、遺産相続のトラブルは弁護士に相談を
遺産相続に関してトラブルが発生した場合、速やかに解決するためには、法律の専門家である弁護士に相談することが不可欠です。
弁護士に依頼すれば、相続トラブルの原因や背景について正確に分析したうえで、状況に合わせた適切な解決策を提案することができます。
ベリーベスト法律事務所の弁護士は、取得したい遺産などの要望について依頼者からヒアリングしたうえで調査し、可能な限りご要望に添った形でトラブルを解決できるように尽力いたします。
もし遺産相続について他の相続人と揉めてしまった場合には、まずはベリーベスト法律事務所までご連絡ください。
5、まとめ
他の相続人が遺産を独り占めしようとしている場合や、遺産の開示に応じない場合などには、適切な対処法を実施するために弁護士に相談しましょう。
ベリーベスト法律事務所の弁護士は、各種の照会や調停・審判手続きを通じた開示請求など、状況に応じて利用可能な手段を幅広く検討したうえで、スムーズな遺産開示の実現と遺産分割協議の進展に向けて尽力いたします。
また、ベリーベストグループ内には税理士も在籍しており、相続税申告や生前の相続対策などについてもワンストップでご相談いただけます。
他の相続人が遺産分割に応じないなどの遺産分割トラブルにお困りの方は、お早めにベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています