相続税の申告と納付期限は10か月以内|過ぎたときの対処法を紹介
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令和6年7月、相続税の算定で不動産の時価を評価する際の指標「相続税路線価」が発表され、国税庁のウェブサイトに掲載されました。長野県は32年ぶりに相続税路線価が上昇に転じました。なかでも、リゾート地の白馬村は約3割の上昇となり、全国有数の上昇率となっています。
ところで、相続手続きはいくつかの重要な期限が定められていますが、そのひとつが相続税の申告と納付の期限です。相続税の申告・納付期限は10か月ですが、この期限は相続手続き全体の進行にも大きな影響があるため、よく確認しておくべきでしょう。
本コラムでは、相続税の申告・納付の期限に焦点を当てて、相続手続きについてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。


1、相続税の申告と納付期限について
相続税の申告・納付の期限は、相続税法で「相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内」と定められています。
ここからは、この期限の起算日や申告・納税までに必要な手続きについて紹介します。また、期限を過ぎたら受けるデメリットについても解説します。
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(1)申告・納付期限の起算日・期限となる日
相続税の申告・納付期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から起算します。
相続は、被相続人(財産を相続される方)の死亡により開始されます。つまり、起算日は被相続人が死亡し、自身が相続人となったことを認識した日の翌日です。
親族の場合、一般的には当日中に訃報を受けることが多いでしょう。そのため、被相続人が亡くなった日の翌日が申告・納付期限の起算日となるケースがほとんどです。
ただし、起算日は長期間の行方不明による「失踪宣告」や、災害などに巻き込まれたことによる「認定死亡」により、法律上死亡したと扱われて相続が開始する、特殊なケースもあります。
相続税の申告・納付の期限は、起算日から10か月後です。例として、4月10日に被相続人が亡くなり、当日中にその事実を知ったとしましょう。この場合、4月11日が起算日で、翌年2月10日が納付期限日となります。 -
(2)申告・納付までに行う必要がある相続手続き
相続税の申告を行うまでには、以下の手続きを進める必要があります。
① 被相続人の財産や債務の調査(課税価額の算定)
相続税の課税の有無や税額は、主に以下の資産等の価額を基準に決定されます。- 被相続人の預貯金や不動産など、すべての財産
- 被相続人の借金や未払い金などの債務
- 生命保険金や死亡退職金
- 持ち戻しの対象となる生前贈与
なお、生前贈与の持ち戻しとは、相続の直前に被相続人から相続人に対してなされた贈与を、相続財産に加算して課税する制度です。
従来は相続開始前3年間の暦年贈与が対象でしたが、令和6年1月1日から行われる贈与については期間が相続開始前の7年間に延長されており、令和13年1月1日になるまでは7年が経過していないため、段階的な導入となっています。
② 法定相続人の調査(基礎控除額の算定)
相続税は、法定相続人の人数により基礎控除額が決められます。
法定相続人とは、民法の規定により相続権が認められる親族のことで、配偶者とともに以下の順位で決められます。- 第1順位:子
- 第2順位:直系尊属(父母や祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹
また基礎控除とは、課税価額から無条件で差し引くことができる控除のことです。課税価額がこの金額以下であれば、相続税は課税されず、申告をする必要はありません。
基礎控除額は、「3000万円+(法定相続人の人数×600万円)」という算定式で計算します。
たとえば、法定相続人が配偶者と子2人の場合、基礎控除額は以下ように算出可能です。3000万円+(3人×600万円)=3000万円+1800万円
=4800万円
なお、法定相続人の中に相続放棄をした者がいたとしても、相続放棄をしていないものとして人数にカウントされることには注意が必要です。
③ 遺産分割(各相続人の納税額の算定)
相続人が複数いる場合、相続人全員で話し合い、誰がどの財産を相続するのかを決める必要があります。遺産分割協議で相続人全員が合意し、各相続人の取得分が確定すると、それに応じて各人が納付すべき相続税額も決定されます。
なお、遺産部分割手続きが終了していない場合でも、定められた相続税の納付期限までに申告・納税を行わなければなりません。期限までに手続きを済ませることに不安がある場合、弁護士への相談も検討しましょう。 -
(3)期限までに申告・納付をしなかった場合の不利益
期限までに相続税の申告・納付をしないと、以下の不利益をこうむる可能性があります。詳しく解説しましょう。
① 無申告加算税、延滞税が発生する
期限までに相続税の申告をしなかった場合は「無申告加算税」が、納付しなかった場合は「延滞税」が加算されます。
加算税や延滞税は、申告不要と判断したものの、実際は手続きが必要だったケースでも原則として免除されません。また、相続手続きが未了の場合や、納税資金が準備できていなかった場合も、免除されないのが基本と覚えておきましょう。
② 配偶者税額軽減などの特例が受けられなくなる
相続税には税負担を軽減する各種の特例措置があり、これらの特例を受けることにより、納税の必要がなくなるケースもあります。
特に、配偶者の税額軽減や小規模宅地などの特例は、相続税の負担を大幅に軽減できる制度といえます。ただし、基礎控除とは異なり、期限内に申告を行わないと適用されません。
そのため、特例の適用により、最終的に納税が不要となる可能性がある場合でも、必ず期限内に申告を行う必要があります。
2、相続税の申告が間に合わない場合の対処法
相続税の申告が期限までに間に合わない、あるいはすでに期限を過ぎてしまった場合の対処法について解説します。
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(1)税務署に相談する
期限を過ぎても、申告や納税の義務がなくなることはありません。また、税務署から悪質な課税逃れと判断された場合は、重加算税が加算されることや、刑事罰の対象となる可能性があります。
そのため、申告が遅れた場合でも、自発的に申告する意思があることを明確にしておくことが重要です。まずは税務署の窓口で状況を説明して、必要な手続きについて相談することをおすすめします。
なお、災害などやむを得ない理由により申告や納付が困難な場合には、期限の延長が認められることもあります。 -
(2)遺産が未分割でも申告・納税を行う
遺産分割が未了で納税額が確定していない場合は、期限までに申告を行い、仮の税額を納付しましょう。
その後、遺産分割により具体的な相続分が確定した段階で、修正申告などを行い、納税額の過不足を調整することになります。
配偶者税額軽減や小規模宅地などの特例を受ける場合も、期限内に申告・納付を行います。そして、申告期限から3年以内に遺産分割を行い、特例を受ける見込みがあることを申し出ておく必要があります。 -
(3)納税資金が用意できない場合
税金は、基本的に現金一括払いでの納付を求められます。しかし、以下のように現金一括払い以外の納付方法が利用できることもあります。
① クレジットカード払い
相続税は、クレジットカードによる納付が可能です。利用できるクレジットカードは、Visa、Mastercard、JCB、American Express、Diners Clubの5種類です。
カード利用契約によっては、分割払いやリボ払いが選択できる場合があります。注意点- 納税額と決済手数料の合計が1000万円未満の場合に利用可能
- 納税額の約1%に相当する決済手数料が発生する
- 分割払いやリボ払いを利用する場合は、さらに分割手数料が発生する
② 延納
延納とは、土地や有価証券などの担保を提供して、最大20年、年1回の分割払いにより納付する方法です。注意点- 税額が10万円を超えることが条件
- 金銭で納付することが困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること
- 申告期限までに延納申請書など必要書類の提出が必要(最長で6か月の延長が認められる場合あり)
- 審査により許可されないこともある
- 年1%前後の利子税が発生する
- 担保物件は、相続登記が完了しているなどの条件がある
- 当面の生活資金などを除く余剰資金は現金納付が必要
③ 物納
物納とは、相続財産などの現物を国に納めて納税に代える方法です。注意点- 申告期限までに物納申請書など必要書類の提出が必要(最長で1年の延長が認められる場合あり)
- 審査により許可されないこともある
- 現金納付、延納によることが困難と認められる範囲に限り認められる(余剰資金は現金納付が必要)
- 不動産、国債、地方債、上場株式などが優先され、管理や処分が困難な財産は対象外
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3、遺産相続に関する手続きの期限
相続手続きにおける重要な期限や、相続税の申告・納付を円滑に行うために意識したいスケジュールについて解説します。
なお、以下から特に注意書きがない限り、期限の起算日は「相続の開始があったことを知った日」として紹介します。
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(1)3か月以内|相続放棄・限定承認
被相続人に債務が多いようなケースでは、相続放棄をして相続人にならないことも選択肢になります。また、債務を清算して、残りの財産のみを相続する限定承認も考えられるでしょう。
これらの手続きを行うためには、3か月以内に家庭裁判所への申し立てが必要です。
なお、相続承認又は放棄までの熟慮期間を3か月から延長したとしても、相続税申告・納付期限である10か月は延長されません。 -
(2)4か月以内|準確定申告
被相続人に所得があり、確定申告を行う必要がある場合は、4か月以内に相続人が代わりに手続きをする「準確定申告」を行う必要があります。
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(3)10か月以内|遺産分割・預貯金や有価証券の名義変更
相続税の申告・納付期限である10か月以内に済ませておきたい手続きには、以下のようなものがあります。
- 遺産分割
- 預貯金・有価証券などの解約や名義変更
遺産分割には明確な期限はありません。しかし、未分割のまま相続税の申告をすると、手続きが煩雑になったり、すぐに特例が受けられなかったりする不利益を受ける可能性があるでしょう。
遺産分割を行えば、預貯金や有価証券の名義変更・解約により、納税資金の確保ができるようになります。 -
(4)1年以内|遺留分侵害額請求
兄弟姉妹以外の相続人には、法律上、最低限の遺産の取り分である「遺留分」が保障されています。遺言や生前贈与によって相続財産が大幅に減少し、相続人が取得できる遺産が遺留分を下回る場合、その不足分を金銭で回収することが可能です。
遺留分を侵害された相続人がこの権利を行使するためには、相続の開始及び遺留分を侵害する遺言や生前贈与の事実を知った日から1年以内に遺留分侵害額請求を行う必要があります。 -
(5)3年以内|保険金請求・相続登記
保険金の請求権は3年で時効となります。
また、不動産を相続した場合は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記などの手続きをすることが義務付けられています。
相続登記を怠った場合、10万円以下の過料に処せられることがあるので、早めに対応するようにしましょう。
4、相続手続きで悩んだら弁護士に相談を
相続税の申告・納付を期限内に行うためには、相続手続きを迅速に進める必要があります。しかし、相続財産や相続人の調査には一定のノウハウが必要なため、何から始めればよいのかわからず、つい先延ばしにしてしまう方もいるでしょう。
さらに、遺産分割は全相続人の合意が必要となるため、トラブルが起こりやすく、手続きが順調に進まないことも考えられます。
相続手続きの進め方がわからない、相続人間で意見が対立しているなど、相続手続きでお困りの方は、弁護士に相談するのがおすすめです。
相続手続きは法律に沿って進めることもあり、法律知識と相続実務の経験が豊富な弁護士は、最適なサポート役といえます。弁護士であれば、期限を意識した相続手続きの進め方や公平な解決方法について、具体的なアドバイスの提供が可能です。さらに、交渉や裁判所への手続きも弁護士が対応できます。
5、まとめ
相続税の申告と納付の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日が起算日となるのが一般的で、10か月以内と定められています。相続税の申告・納付期限に間に合わない事態を避けるためにも、相続の手続きをスムーズに進めることが大切です。
しかし、相続の手続きは思うように進まないこともあるでしょう。各種の期限を過ぎると思わぬ不利益を受けることがあるので、お悩みがある際は、なるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、相続についてのご相談を承っております。どうぞお気軽にご相談ください。
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